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基礎解説 第14回 AIGIS Cyber Lab

「メーカー任せ」「病院任せ」にしない|医療機器のセキュリティーと役割分担

医療機器のサイバーセキュリティーでは、
「メーカーが対策しているから大丈夫」
「病院側でネットワークを守ってもらえばよい」
という考え方だけでは、うまくいかないことがあります。

医療機器は、メーカーが製品を開発し、医療機関が実際の環境で使用し、場合によっては保守会社や外部事業者が設定変更や更新を担当します。

つまり、一つの製品の安全性に、複数の組織が関わっています。

重要なのは、誰が何をするのかを、曖昧にしないことです。

今回は、医療機器メーカー、医療機関、保守事業者の役割分担を基礎から整理します。

メーカーだけでは守れない

医療機器メーカーは、製品そのものの安全性について大きな役割を持ちます。

例えば、

  • 製品にどのようなソフトウェアが含まれているか
  • どのような通信を行うか
  • どのような設定が必要か
  • 脆弱性が見つかった場合にどの製品が影響を受けるか
  • 更新方法や回避策は何か

といった情報です。

第10回では、脆弱性が見つかった場合に影響対象を確認し、優先順位を決めることを扱いました。

そのためには、メーカー側が製品の構成や影響範囲を把握している必要があります。

一方で、メーカーが医療機関のネットワーク全体を管理しているわけではありません。

製品が安全に設計されていても、実際の設置環境や接続方法によってリスクが変わることがあります。

医療機関だけでは判断できないこともある

医療機関は、実際に機器を使用する環境を管理します。

例えば、

  • どのネットワークへ接続するか
  • 誰が機器へアクセスできるか
  • 遠隔保守をどのように許可するか
  • いつ更新作業を実施するか
  • 障害時に代替運用が可能か

といったことです。

第11回では、医療機器や業務PCの通信範囲を把握し、必要な通信を維持しながら不要な通信を制限するネットワーク分離の考え方を扱いました。

しかし、医療機関だけでは、
「この通信を止めても製品は正常に動くのか」
「このOS更新を適用してよいのか」
「この設定変更は製品保証や安全性へ影響しないか」
といったことを判断できない場合があります。

その場合は、メーカーや保守事業者からの情報が必要です。

保守会社にも役割がある

医療機器や医療情報システムでは、メーカーとは別の保守事業者が実際の作業を担当する場合があります。

例えば、

  • ソフトウェア更新
  • 設定変更
  • ネットワーク設定
  • 遠隔保守
  • 障害調査

などです。

第9回では、リモート保守について、

  • 誰が接続できるか
  • いつ接続できるか
  • どこまで操作できるか
  • 接続記録を確認できるか

を整理しました。

保守事業者が作業する場合も、
「保守会社だから自由に変更してよい」
わけではありません。

誰の承認で、何を変更し、どのように結果を確認するのかを整理する必要があります。

例えば脆弱性が見つかったら

ある医療機器に新しい脆弱性が見つかったとします。

このとき、一つの組織だけで対応するとは限りません。

例えば次のような流れが考えられます。

メーカー

  • 対象製品・対象バージョンを確認する
  • 実際に影響するか評価する
  • 更新プログラムや回避策を検討する
  • 医療機関へ必要な情報を提供する

医療機関

  • 自院に対象機器があるか確認する
  • 診療への影響を確認する
  • 更新をいつ実施するか判断する
  • 必要に応じて代替運用を準備する

保守事業者

  • 契約と承認に基づいて作業する
  • 更新や設定変更を実施する
  • 作業結果を報告する

作業後

  • 製品が正常に動作するか確認する
  • 必要な通信が継続しているか確認する
  • 対応記録を残す

これは一例です。

実際の分担は、製品、契約、組織体制によって異なります。

重要なのは、誰が担当するか決まっていない作業を残さないことです。

「共同責任」は「誰の責任でもない」ではない

サイバーセキュリティーでは、「共同責任」という言葉が使われることがあります。

これは、
「みんなで気をつけましょう」
という意味ではありません。

例えば、メーカーは製品に必要な情報を提供する。

医療機関は、自院の環境と診療への影響を踏まえて運用を判断する。

保守事業者は、決められた範囲で作業し、結果を報告する。

というように、それぞれの役割を具体的にすることが重要です。

「メーカーがやると思っていた」
「病院側で対応済みだと思っていた」
という状態を避けます。

情報の受け渡しも重要

役割が決まっていても、必要な情報が届かなければ対応できません。

例えばメーカーから、
「この製品のこのバージョンに脆弱性があります」
という情報が出ても、医療機関の適切な担当者へ届かなければ対応が始まりません。

逆に医療機関で、
「この機器が普段と違う動作をしている」
という異常に気づいても、メーカー側の適切な担当者へ伝わらなければ製品側の調査につながりません。

第13回では、異常を見つけたあと、適切な担当者へ報告し、初動判断につなげることを扱いました。

医療機器では、その連絡が組織をまたぐことがあります。

そのため、

  • 誰へ連絡するか
  • どの情報を伝えるか
  • 誰が回答するか
  • 対応状況を誰が追跡するか

を決めておくことが重要です。

更新作業では役割分担が見えやすい

医療機器のソフトウェア更新を考えてみます。

メーカーが更新プログラムを用意しても、勝手に医療機関の機器を書き換えるわけにはいきません。

医療機関側では、

  • 診療への影響
  • 実施日時
  • 代替運用
  • 必要な承認

を確認する必要があります。

保守事業者が作業する場合は、

  • 対象機器
  • 作業内容
  • 作業時間
  • 作業結果

を確認します。

さらに、更新後に機器が正常に動作しているかも確認する必要があります。

単に
「パッチを出した」
「更新を実施した」
だけで終わらせず、最後に安全に使える状態へ戻ったことを確認するところまで役割を決めます。

契約書だけで終わらせない

役割分担は、契約や保守条件にも関係します。

しかし、
「契約書に書いてあるから大丈夫」
とは限りません。

例えば、

  • 緊急時の連絡先が古い
  • 担当者が退職している
  • 夜間の連絡方法が分からない
  • 契約には書いてあるが現場が知らない
  • メーカーと保守会社の担当範囲が分かりにくい

といったことがあります。

契約だけでなく、実際に連絡・判断・作業できる状態になっているかを確認することが大切です。

医療機関が確認したいこと

医療機関では、少なくとも次のような点を確認します。

  • 重要な医療機器のメーカー・保守窓口
  • 脆弱性情報を誰が受け取るか
  • 更新実施を誰が判断するか
  • 診療影響を誰が確認するか
  • 緊急時に誰へ連絡するか
  • 作業結果を誰が確認するか

専任のセキュリティー担当者がいない医療機関でも、誰へ相談するかだけは明確にしておくことが重要です。

メーカーが確認したいこと

メーカー側では、

  • 製品に必要な安全な使用条件を説明できるか
  • ネットワーク・通信要件を伝えられるか
  • 脆弱性情報を適切に案内できるか
  • 更新・回避策を提供できるか
  • 顧客からのセキュリティー問い合わせを受け付けられるか
  • 問題発生時に開発・品質・セキュリティー部門へ引き継げるか

を確認します。

メーカーが医療機関の運用をすべて管理する必要はありません。

しかし、製品を安全に利用するために必要な情報を利用者へ渡せることは重要です。

5分で確認してみましょう

自社や自院について、次の質問に答えられるでしょうか。

  • セキュリティー上の問題が起きた場合の連絡先が分かる
  • メーカー・医療機関・保守会社の担当範囲を説明できる
  • 脆弱性情報を誰が受け取るか決まっている
  • 更新を誰が判断し、誰が実施するか決まっている
  • 診療への影響を確認する担当者が決まっている
  • 作業後に正常動作を確認する担当者が決まっている
  • 緊急時の連絡先が最新か確認している
  • 対応状況を最後まで追跡できる

一つでも「分からない」があれば、そこが役割分担を確認する入口です。

AIGISでは「誰がやるか」まで確認します

セキュリティー対策では、
「何をすればよいか」
だけでなく、
「誰がそれを行うか」
を決めることが重要です。

AIGISでは、医療機器メーカーと医療機関、必要に応じて保守事業者を含め、

  • 誰が情報を持つか
  • 誰が判断するか
  • 誰が作業するか
  • 誰が結果を確認するか

を整理することを重視します。

メーカー任せでも、病院任せでもありません。

それぞれが担当する部分を明確にし、組織の間に対応の空白を作らないこと。

それが、医療機器を継続して安全に利用するための基本の一つです。

参考資料

情報確認日:2026年10月29日

医療機器のセキュリティー、まずは現在地を知ることから

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